田中労務経営事務所  業務日誌

埼玉で社会保険労務士をやっています。日々の業務にまつわるあれこれを綴っていきます。

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大

f:id:tanaka-sr:20211102224010j:plain

 

令和4年10月には常時100人超の事業所についても、短時間労働者を社会保険強制加入とする特定適用事業所になります。

 

f:id:tanaka-sr:20211102215821j:plain

 

来年の厚生年金保険適用拡大については、弊事務所でもお知らせを始めているところです。

パートさんについて1年契約更新型で雇用している事業所では、令和4年10月によらず契約更新の時期までに検討しておく必要がありますので、4月更新の事業所では準備期間が実質半年を切っているところであります。

 

さて、特定適用事業所で社会保険に加入させなければならない短時間労働者の要件は、以下のとおりです。


・週の所定労働時間が20時間以上であること
・雇用期間が2か月を超えて見込まれること
・賃金の月額が88,000円以上であること
・学生でないこと

このうち、「賃金の月額が88,000円以上であること」についてお問い合わせが多いので、ブログに乗せておきます。

 

「賃金の月額が88,000円以上であること」の解釈は、原則として労働契約の内容で判断します。
であるため、契約更新時の労働条件検討がとても大事になります。

なお、拡大が施行される10月1日をもって判断しますので、今が多くても少なくても関係ありません。
また、年額判断ではなく月額判断なので、税法の扶養控除と異なり12月末の結果をもって判断するものでもありません。
その意味では、週2日勤務だった人が週4日勤務となって88,000円以上の収入が見込めるようになったときはその時点で保険加入し、フルタイムだった人が週2日になって88,000円未満の収入となった場合はその時点で資格喪失手続きを行います。
なお、被保険者資格取得が優先するので、年130万円未満の収入であったとしても被扶養者に留まることはできません。


問題は、「労働契約の内容と実際の労働時間が異なるとき、またはそもそも所定労働時間が不明確なとき」です。

飲食業などを中心に、こういった働き方をしているパートさんって多いですよね。

 

たとえば、週19.5時間(6.5h×3日)の雇用契約書を締結している場合で、実際の労働時間が、所定労働時間を超える事が常態化し、結果的に週20時間を超える場合は労働の実態を把握し、週平均20時間以上の勤務となっているかどうかで判断されます。

 

この点、厚生労働省の「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(第2版(平成28年9月30日更新))」に次のように記載されています。

Q

問 18 の2 就業規則雇用契約書等で定められた所定労働時間が週 20 時間未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が週 20 時間以上となった場合は、どのように取り扱うのか。

A

実際の労働時間が連続する2月において週 20 時間以上となった場合で、引き続き同様の状態が続いている又は続くことが見込まれる場合は、実際の労働時間が週 20 時間以上となった月の3月目の初日に被保険者の資格を取得します。

 

 つまり、2か月連続で週20時間以上の状態が続き、さらにその状態が続く見込みであれば、3か月目から、被保険者となります。

一方、この残業が続いた月が恒常的なものではなく、繁忙期による事が原因で、繁忙期が過ぎれば週20時間未満の労働時間となる見込みであれば、被保険者とはならないと考えられます。


ということで、1月から調整に入らなくても大丈夫ですが、加入しないなら契約を9月30日までにして、10月1日以降は週20時間未満または月88,000円未満の収入となるように再契約することが肝要となります。

 

以上に加えて気を付けなければならないのが、「88,000円」の内容です。

この金額には含めて判断するものと、含めないもの(具体的には次のもの)とがあります。

イ  臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
ロ 1月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
ハ 時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)

 

難解なのは、加入資格ありと判断されて手続きをする際には、上記のうちハとニは標準報酬月額算定対象の報酬に含まれることです。

 

<付け足し>

常時100人以上事業所の判断ですが、留意点は以下のとおり。

① 人数は法人単位でカウントします。

  法人の単位は「法人番号」で判別します。

 

② 100人超は厚生年金保険被保険者数で判断します。

  全労働者数ではないので注意が必要です。一般的には週30時間以上の従業員が何人いるかで判断します。

 

③ 常時は、12か月のうち6か月以上厚生年金被保険者数が100人を超えることが見込まれるかで判断します。

 

「学生でないこと」については、昼間学生を指します。夜間学部、夜間定時制等の学生は除外されないので、注意が必要です。