田中労務経営事務所  業務日誌

埼玉で社会保険労務士をやっています。日々の業務にまつわるあれこれを綴っていきます。

令和2年度 処遇改善等加算Ⅱの変更点について

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保育園や認定こども園などの民間保育所等に対し従事者の処遇改善を目的として処遇改善等加算制度が設けられています。

 

平成25年度に保育士等処遇改善臨時特例事業費として開始された処遇改善のための人件費加算制度ですが、その後平成27年度に「処遇改善等加算 Ⅰが、平成29年度に「処遇改善等加算 Ⅱが導入されて今に至っています。

 

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そのうち、処遇改善等加算 Ⅱについて、令和2年度からの変更点が示されていますので、解説します。

 

そもそも処遇改善等加算 Ⅱとは、キャリアパスの仕組みを構築し幼稚園教諭や保育士等の処遇改善に取り組む施設・事業所に対して、キャリアアップによる処遇改善に要する費用を公定価格に上乗せを行うものです。

これにより、職員が意欲とやりがいをもって長く働き続けることができる職場を構築する取り組みを支援するため、人件費等の経費を加算するということが目的となっています。

 

これまで、職員の平均経験年数や賃金改善・キャリアアップに応じた人件費の加算としてあった「処遇改善等加算」を「処遇改善等加算 Ⅰ」と改め、平成29年度からは、技能・経験を積んだ職員に係る追加的な人件費の加算として「処遇改善等加算 Ⅱ」がはじまりました。

この目的の違いから、全職員を対象に処遇改善を行う処遇改善等加算 Ⅰと、一定以上の経験年数や指定研修受講を要件として一部の職員(副主任・専門リーダー・職務分野別リーダー)にのみ処遇改善を行う処遇改善等加算 Ⅱとに分けて加算(公定価格の上乗せ支給)がされています。

 

そこには、慢性的な保育士不足への対策(職業としての保育士の確立 → 保育士も世間一般並みの収入を得られるようにして就職者数を底上げする)とともに、昨今の職員不足によりインフレを起こした初任給により賃金バランスを崩した(=概ね10年以上前に採用された職員の低賃金と最近採用された職員の初任給とに賃金額の差がない状態)ことを是正することが実質的な目的としてあります。

 

 

さて、令和2年度の変更点ですが、

画期的なことに、副主任・専門リーダー等に支給する月4万円支給対象者のうち、4万円固定の縛りが「1名以上」に緩和されました。

 

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令和2年度における処遇改善等加算の運用の改善(資料2-4)

 

昨年度までは、施設・事業所における職員の経験年数・技能及び給与実態等を踏まえ、施設・事業所が必要と認める場合には、月額4万円の賃金改善を行う職員数を「人数A÷2(1人未満の端数は切り捨て)」人以上確保した上で、その他の技能・経験を有する職員(園長以外の管理職、副主任保育士及び職務分野別リーダー等に限る。)について月額5千円以上月額4万円未満の賃金改善額とすることができるとされていたため、必ず対象人数Aの半数は月4万円を支給しなければなりませんでした。

しかし、令和2年度からは、1名に4万円を支給すれば、後のものについては自由に配分することが可能となりました。

運営的には自由度が高まった形ですが、もともとの目的からは大分外れてきていますので、建前よりも上記に書いたようなホンネの部分を優先させたというところでしょうか。

もちろん、職務分野別リーダー(人数B)の一番金額の多い者よりも、専門リーダー(人数A)の一番金額の低い者のほうが支給額が多くなければならないというルールは変わっていませんので、引き続き注意が必要です。

 

もう一つ、実務的に大きな変更点は、賃金改善の算定起点となる基準年度を「加算当年度の前年度」とされたことです。

これは Ⅰ も Ⅱ も同様ということで、これまで訳の分からなかった、仮想的に平成24年度職員給与を算定して、これと比べて処遇改善がなされているかどうかという計算を報告書に記載しなくてよくなったのは、実務的に喜ばしいことです。

 

ただ、前年度と比較することになった代わりに、これまで施設単位で全体として処遇改善されたかを報告していたものが、職員個別に比較報告するようになるという未確認情報もあり、もしかしたら実施報告はこれまで以上の面倒なものになるかもしれません。

やれやれ(;´∀`)

 

いずれにしても、現場からすると「加算は嬉しいけど、内容がよくわからなくて運用が難しい」ということで厄介者扱いされている処遇改善等加算制度が、現状に合わせて少しづつ変更されていくのはありがたいことです。

支給申請(計画届)や実施報告書がマクロ入りエクセルファイルになって、いろいろ自動計算になっていくのも助かることは助かりますし。

 

ただ、究極的には「加算」ではなくて、公定価格に完全に「統合」され、もっと自由に賃金設計できるようになるとよいのですが。

もっとも、そのためには保育園事業者がもっと人事労務管理に精通していかないと、不合理な賃金格差や差別、理論的に成り立たない賃金設定などが横行し、保育士さんたちの処遇がまた地に落ちることにもなりかねません。

 

そのためには、私たち社会保険労務士を有効に利用していただき、人事労務の専門家としての知見を施設運営に生かしていただくのが、一番簡単で合理的な方法だと思います。

また、そのためにも更なる自己研鑽が、私たちにも必要となることは肝に銘じなければなりません。