日本人内縁の妻を外国人被保険者の扶養に入れる(健保)
先日顧問先様から「外国人従業員さんの扶養に内縁の妻(日本人)を入れる手続きをして欲しい」との依頼を受けました。
健康保険法(法第3条第7項)では「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある」配偶者(事実婚ともいいますが、以下、「内縁の配偶者」ということにします。)も通常の配偶者と同様に被扶養配偶者として取り扱うことを認めています。
無事手続きが済みましたが、今回のブログはその備忘録として。
<外国人被保険者に日本人内縁の配偶者扶養異動手続に必要な添付書類>
①被保険者・被扶養者両者の戸籍謄本(※ 翻訳付き)
内縁の関係である場合、お互いに戸籍上の配偶者がいないことを確認します。
原則として、戸籍上の配偶者が他にいる場合は内縁の配偶者を被扶養者にすることはできません。ただし、重婚的内縁関係であっても、法律上の婚姻関係のほうが形骸化され、内縁の配偶者との生活期間が長かったり、2人の間に子供がいたりする場合など、個別に認定される場合もあるようです。
海外で一夫多妻制が認められていたとしても、日本国内の制度なので本国に妻がいたら認められないのかは調べてみたいです。
外国人である者の戸籍証明書については日本語訳を添付しなければなりません。
英語やドイツ語くらいならどうにか内容の確認ができるのですが、アラビア語とかになるとさっぱりです(@_@)
②住民票
被保険者・被扶養者の関係や生活実態を確認します。
同居であって、同一世帯として同じ住民票に記載があり、続柄が「夫(未届)」「妻(未届)」となっている場合は手続が進めやすいようです。
また、必ずしも同居である必要はありませんが、別居している場合はその理由や状況を説明できる追加の書類を求められる可能性が高いです。
③マイナンバー
④被扶養者の課税証明書・非課税証明書
事業主の確認等での省略はできません。
内縁の配偶者は税法上控除対象配偶者になれないのが理由です。
以上の書類を添付して広域事務センターへ申請します。
電子申請でもOK。その場合は確認書類をPDFにして添付します。
被扶養の認定は原則として遡及できません。
被扶養者異動届も続柄の欄に「3.夫(未届)」「4.妻(未届)」という記載があります。
従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き(日本年金機構)
<被扶養者の収入要件について>
ところで巷で「130万円の壁」などと言われている被扶養配偶者の収入要件ですが、割と誤って理解されていることが多いので記載しておきます。
「年収130万円未満」は年間収入の合計ではないということに注意が必要です。
被扶養者の方に定期的な収入がある場合、被扶養者の年収計算の対象は、被扶養者となる人の年間収入の合計ではなく、扶養に入る月の直近3か月の給与の平均の12倍が被扶養者の年収と考えます。
【具体例】7月から社会保険の扶養に入りたい場合
4月分給与(8万円)+5月分給与(10万円)+6月分給与(12万円)÷3×12
被扶養者の年間収入は120万円というふうに見ます。
失業給付、健康保険の傷病手当金も収入扱いとなります。
失業給付や傷病手当金は、税法上非課税の収入となりますが、被扶養者の要件としては、収入扱いとなるため、年間収入の一部と考えなければいけません。
失業給付金と傷病手当金が年間130万円以上となる場合、社会保険の扶養者に含まれないため、注意が必要です。
一般的に失業給付・傷病手当金の日額3,611円以下であることが条件です。
※自営業を営んでいる認定対象者の年間収入の算定にあたっては、収入額(売上)ではなく一定の経費を差し引いた所得で判断します。
ただし、収入から控除できる経費は事業所得の金額を計算する場合の必要経費とは異なりますので注意が必要です。
○控除できる経費の例 売上原価(一般所得)、種苗費、肥料費(農業所得)等
○控除できない経費の例 減価償却費(一般所得、農業所得、不動産所得)等
<その他内縁の配偶者についての留意点>
1.年金制度
内縁の配偶者は、健康保険の被扶養者となった場合は、国民年金の3号被保険者となることもできますので、3号被保険者の期間は年金保険料を負担することなく、保険料納付済期間にカウントされます。
また、被保険者が老齢年金や障害年金を受給する際に、一定の要件を満たすことで受給できる加算部分(加給年金)について、内縁の配偶者及びその子を対象の家族として算定することができます。
加えて、被保険者が死亡した場合は、内縁の配偶者が遺族年金を受給できることもあります。
※受給に関する決定は、実態に沿って判断されるため、個別の事案により異なる場合がありますので要注意
2.所得税
社会保険とは異なり、所得税の配偶者控除、配偶者特別控除は、内縁の配偶者については適用されません。
ただし、所得者が支払った、内縁の配偶者に係る生命保険料や医療費については、場合によっては控除対象となる可能性もあるようなので、該当する場合は税理士等の専門家にご相談ください。
3.同性婚(同性パートナーシップ制度)
渋谷区、世田谷区の取組みをはじめとして、徐々に同性パートナーシップ制度が広がりを見せています。同性パートナーシップ制度による証明書が発行されると、公営住宅をはじめとした行政サービスや、民間の生命保険、住宅ローン、通信料の家族割引など、今まで対象とならなかったサービスが受けられる場合があります。
しかしながら現行では、健康保険上、内縁の配偶者として被扶養者となることや、年金制度上の3号被保険者や加算対象家族等となることはできません。
こういう点ではLGBTQに対する行政の対応はまだまだこれからの課題です。