2021年の地域別最低賃金が出揃いました
令和3年7月16日に中央最低賃金審議会の答申があり、令和3年度地域別最低賃金額改定の目安について発表されています。
今年はA~Dのランク一律に28円の目安額を示したことに衝撃が走ったのは記憶に新しいところです。
(まあ、まだ1か月も経っていませんね。)
これを受けて各都道府県で地方最低賃金審議会が開催され、一部28円を超える上げ幅を決定するところもありながら、2021年の地域別最低賃金が出揃いました。
JIJI.comより
中央審の報告書によると、『「経済財政運営と改革の基本方針 2021」及び「成長戦略実行計画・成長戦略フォローアップ」に配意した調査審議が求められたことについて特段の配慮をした上で、総合的な審議』を行った結果が、全国一律28円アップだったようです。
昨年は目安額を提示しないという答申だったのが一変し、今年は以下の4点を理由として従来からの路線通りに3%強の上げ幅を示しています。
①春季賃上げ妥結状況等における賃金上昇率は、昨年より上げ幅は縮小しているが、引き続きプラスの水準を示している
②消費者物価指数は、横ばい圏内で推移しており、名目GDPは、令和2年には落ち込んだものの、足下では一時期より回復している
③法人企業統計における企業利益は、足下では、産業全体では回復が見られること、また、一部産業では引き続きマイナスとなっているものの、政府として、「感染症の影響を受けて厳しい業況の企業に配慮しつつ、生産性向上等に取り組む中小企業への支援強化、下請取引の適正化、金融支援等に一層取り組」む方針であること
④雇用情勢は、令和2年には悪化したものの、足下では横ばい圏内で推移しており、有効求人倍率は1倍を超え、失業率も3%以下で推移している
以上を踏まえ、『平成28 年度から令和元年度までの最低賃金を 3.0~3.1%引き上げてきた時期と比べて、今年度の状況は大きく異なるとは言えず、最低賃金をその時期と同程度引き上げた場合にマクロで見た際の雇用情勢に大きな影響を与えるとまでは言えないと考えられること』ということで、原則(?)に立ち返っての28円提示でした。
確かに、日本の最低賃金は、主要先進国の中ではかなりの低水準となっています。
中央最低賃金審議会が5月に開いた全員協議会の資料によると、イギリスは21年4月から最低賃金を2.2%上げ8.91ポンド(約1360円)に、フランスは21年1月から0.99%引き上げ10.25ユーロ(約1330円)になった。ドイツは21年1月から4段階に分けて最低賃金を引き上げ、22年7月からは20年よりも11.8%高い10.45ユーロ(約1350円)にするとしており、今回の結果を入れても930円である日本は先進国とも言い難い低水準です。
近年、労働分配強化の観点から最低賃金引き上げに取り組む国は多くなっています。
賃金の低迷が続けば消費意欲が減退し、世の中の金回りが悪化するからです。
欧米では最低賃金の上昇で消費者物価も上昇する中、日本は低迷が続いてデフレ脱却は遠く、悪循環になっていることは、安倍晋三内閣の下で行われた経済政策(アベノミクス)が失速し、その達成がかなわなかったことを示しています。
これまで急激に最低賃金を上げると企業はコストがかさみ、雇用を減らすと一般的には考えられてきました。しかし、1990年代にデービッド・カード米カリフォルニア大バークレー校教授らが手掛けた実証研究では、必ずしも雇用は減らないと結論づけており、このことは他の先進国の現況を見ても、どうやら間違いではないようです。
最低賃金は財政支出なく格差是正対策ができるという意味で、政治的に扱いやすいものです。
困ったときのタバコ税増税と同意ですね。
賃金を上昇させる政策は世論の受けも良く、秋に衆議院選挙を予定している今年の状況を考えると「それ向きの力」が働いたのではないかと思わせるところもあります。
しかしこの政策は、支払う賃金と労働者が生み出す付加価値のバランスが適切でないと持続できません。
事実、2018年以降、急激に最低賃金を引き上げた韓国では自営業者の廃業が相次ぎ、雇用機会が大きく失われることも生じています。
過去最高額の上げ幅で行った最低賃金の改定をどう思ったのか、中小企業支援として雇用調整助成金の特例期間を12月末まで延長したり、業務改善助成金を一部変更したりと諸施策を打ち出してはいます。
でも助成金による緩和策は一部を助けるものの、その恩恵は全体に回るものではなく、国民全体の生活を考えたときに本当の救済策、支援策とはならないと考えます。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大がいっかな止まらない状況下で、どう経済との両立を図るのか、民間任せではなくきっちりした政治的対応も行っていただきたいものです。
このあたりは衆議院選で論点となるのか、回避されてしまうのか、投票権を持つものとしてはしっかりと注視していかなければなりません。
間違っても、最低賃金を上げて国民の生活を守ったなんて底の浅い功績を声高に主張するだけでは困ります。