思ひつつ
思ひつつ ぬればや人の 見えつらむ 夢としりせば さめざらましを
切ない恋心を詠んだ歌で、大のお気に入りの一つです。
ちょっと古くなりますが、大ヒットした映画「君の名は」のトリガーとなったものでもあります。
小野小町は六歌仙の一人ですが、ストレートに心情を詠ったものが多く、現代の感覚でも共感できます。
「好きな人を思いつつ眠りについたので夢に現れてくれたのですね。夢とわかっていたら目覚めなかったのに」という切ない思いをそのままに詠んだもので、時代を超えて心に訴えかけます。
小野小町といえば、もう一首。
花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
も有名です。
これも好きな一首で、長雨に色あせて散りゆく桜を惜しむことと、これに老いゆく自分の儚さを重ね合わせて、無常を詠ったもので、テクニックの素晴らしさとともに美人として名高い小野小町が詠うことでの特別な感慨があります。
六歌仙は、古今和歌集の仮名序に編者の一人である紀貫之が、優れた歌人として名前を挙げている6人のことをいいます。
小野小町のほか、在原業平、僧正遍昭、喜撰法師、大友黒主、文屋康秀の5人です。
小野小町は三十六歌仙にも名を連ねる歌人ですが、その詳細は不詳です。
それがまた和歌にミステリアスな魅力を添えます。