田中労務経営事務所  業務日誌

埼玉で社会保険労務士をやっています。日々の業務にまつわるあれこれを綴っていきます。

株主総会議事録への押印

社会保険関係の手続き業務をやっていると、たびたび株主総会議事録や取締役会議事録の提出(添付)が必要になります。

で、「この株主総会議事録、押印がないから出し直してください」って返戻されることがよくあります。

「え、会社法上問題ないんですけど。」

ということで、覚書を残しておきます。

 

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<旧商法時代には法的な署名押印義務があった>

 10年ほど前に会社に関する法律の大改正が行われ、現在では、会社法という法律が作られ、旧商法の会社法と重なる部分は削除されています。

 その、改正前の旧商法の時代には、取締役の株主総会議事録への押印義務が法律で定められていました。

 旧商法244条は次のようになっていました。

「第244条 総会ノ議事ニ付テハ議事録ヲ作ルコトヲ要ス
2 議事録ニ議事ノ経過ノ要領及其ノ結果ヲ記載又ハ記録スルコトヲ要ス
3 前項ノ議事録ガ書面ヲ以テ作ラレタルトキハ議長及出席シタル取締役之ニ署名スルコトヲ要ス」

 また、旧商法時代には、「商法中署名スヘキ場合ニ関スル法律」という法律も存在していて、商法の規定で、署名が義務付けられている場合には記名押印でもよい、とされてもいたようです。

 これらの法律から、旧商法時代には、株主総会に出席した取締役には署名か記名押印をする、法律上の義務があったということです。


<現在は会社法上(法律上)の署名(記名押印)義務はない>

 さて、平成18年5月1日施行の会社法には、この株主総会に出席した取締役の株主総会議事録への署名(記名押印)義務に関する規定はありません。
 
 このことから、法律で直接規定された取締役の株主総会への署名(記名押印)義務はないと思われます。

 実際、登記実務でも、株主総会議事録に署名や記名押印がないからといって、登記申請が却下されるという取り扱いはないようです。例外的な場合を除いて、法律上の署名(記名押印義務)はないと言っていいでしょう。


<定款上の署名(記名押印)義務に注意>

 ただ、法律上の義務はないとしても、定款上の署名(記名押印義務)がある可能性があります。

 定款に、出席取締役の署名(記名押印)を義務付ける場合があります。

 

 例えば、

「(株主総会議事録)
第20条  株主総会の議事については,法務省令に定めるところにより議事録を作成し、議長、議事録の作成に係る職務を行った取締役及び出席した取締役がこれに署名若しくは記名押印又は電子署名を行う。」

 このような定款を持つ会社は、たとえ、法律で明確に定められた署名(記名押印)義務がなかったとしても、定款という会社の内部の法律上の、署名(記名押印)義務があることになります。

 

 定款の記載が下記のようであれば、署名(記名押印)義務は法律上も、定款上もないので問題ないということなので、「定款を確認させてください(キリッ)」って言えたら、わかってる風でしょうか。

「(株主総会議事録)
第20条 株主総会の議事については,法務省令に定めるところにより議事録を作成する。」

 

 ただ、揉め事を事前に防止する意味では、定款に取締役の署名(記名押印)義務を定めておき、その規定を根拠に、取締役に押印してもらうというほうが良さそうな気はします。

 


<定款で義務付けられているのに、取締役の署名(記名押印)のない株主総会議事録を作成した場合>

 定款で、取締役の署名(記名押印)義務を定めている場合で、もし、出席した取締役の署名(記名押印)のない株主総会議事録を作成したらどうなるでしょうか?

 仮に法務局では登記申請が受理されたとしても、定款上義務付けられている取締役の署名(記名押印)が株主総会議事録にないことで、決議の取消等の原因にならないか気になるところです。

 

ところで、代表取締役株主総会で選定する場合には、代表取締役選定の際の株主総会議事録には、出席取締役が押印しなくてはならないようです。

取締役会議事録については押印義務があるようですから、そういうことなんでしょうね。