田中労務経営事務所  業務日誌

埼玉で社会保険労務士をやっています。日々の業務にまつわるあれこれを綴っていきます。

読後「ハローサマー、グッドバイ」

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この3週間ほどは、毎日のように午前3時、4時の帰宅が続きました。

 

このブログも27日ぶりの更新で、これまでの不更新期間最長記録を樹立。

4月、5月とここまで、ホントに厳しい毎日でした。

 

まだ山を越えたわけではないのですが、ずっと読みたいと思って積んであり、ずいぶんと時間をかけて読んできたものが、ようやく完読したので久しぶりに書評を書いてみたくなりました。

 

SF好きなら誰でも知っている名作

マイクル・コーニィの「ハローサマー、グッドバイ」です。

 

マイクル・コーニィは恋愛SFを得意とするバーミンガム(英国)生まれの作家で、世界中に熱心なファンを持つ大作家です。

代表作はこの「ハローサマー、グッドバイ」のほか「パラークシの記憶」「ブロントメク!」など。

ブロントメク!では英国SF協会賞を受賞しています。

2005年没

 

本作は1975年に英国内で刊行され、日本では1980年にサンリオSF文庫(!)として刊行されています。

が、1987年にサンリオSF文庫が絶版となってからは入手困難となり、一時は古書価格が高騰していましたが、2008年に山岸真さんの新訳で河出書房新社から復刊。改めて読むことができるようになりました。

なお、サンリオSF文庫ではマイクル・コニイと表記されていました。

誤訳・誤植が多かったことで有名なサンリオSF文庫ですが、SF好きのなかでは伝説的な叢書です。

ちなみに、サンリオSF文庫版のハローサマー、グッドバイは、現在2,125円から14,524円の高値で取引されています。

 

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さて、本書はSF史上屈指の青春恋愛小説であり、またラストの大どんでん返しでも知られる傑作です。

 

「これは恋愛小説であり、戦争小説であり、さらにもっとほかの多くのものでもある。」

 

巻頭の「作者より」最初の一文です。

 

まさに本作を表す言葉で、主人公アリカ=ドローブ少年とパラークシ=ブラウンアイズ少女の恋愛を軸に物語は進行します。

しかしそれだけではなく、主人公の目を通した異世界の奇妙な生態系が生き生きと描かれ、さらに2国間の戦争や少年から成年への成長、微妙な三角関係などたくさんの要素がちりばめられています。

 

これを中学生くらいのときに読んだのであれば、また違った感想を抱いたのかもしれませんが、大人として読むと背伸びしたがる自意識やただひたすらに愛する相手のことのみに没頭してしまう甘酸っぱい感情など、割と「そうだよなあ」なんて思いながら読みました。

中盤以降、一つの経験をきっかけにどんどん魅力を増すヒロインの姿が素晴らしく描かれており、それと同時に暗い影を落とす戦争や現実の重苦しさは終盤にかけてこの二人をどうしようもなく追い詰めていきます。

 

そしてラスト4ページで、それまで巧妙に張られた伏線を見事に回収してのどんでん返し。

引き裂かれ、苦悶にみちた二人が結ばれてハッピーエンドとなるようなことは直接表現されていませんが、不思議な読後感で読者は満たされます。

 

マイクル・コーニィは、小説を作るときにラスト(オチ)を考え、そこから遡ってプロットを詰めていく作法であるとインタヴューで答えています。

今回、時間が取れなくて少しずつ空いた時間に読み進めていた結果、最後の一文を読んだときに「ああ、あそことあそこ、これもすべてラストのカタルシスのために丁寧に書かれているわい」となりました。

 

でも

 

やっぱりこの小説は恋愛小説ですね。

マイクル・コーニィは本作を自伝的要素が強いと後に語っているそうです。

また、他作品でも実体験を小説に盛り込む人だったらしいですが、読み終えて最後の最後に改めて献辞を読み返すと「そして、パラークシ=ブラウンアイズであり、そのことを知らない、ダフネに」と奥方への最大級の愛がありました。

 

個人的にはこの献辞こそが本作の最大の魅力であり、著者と一体となって「傑作」を味わうものと思いました。

 

世界中から本作の続編を待ち望む声が集まり、1990年台に「 I Remember Palahaxi(パラークシの記憶)」を執筆しますが、出版はされず、2005年に自身のWebサイトで発表。同年に死去された後、2007年追悼出版されています。

このパラークシの記憶もハローサマー、グッドバイに並び立つ傑作とされていますので、そのうち読んでみようと画策しています。