新型コロナウイルスと景気回復
出典:日本経済新聞
3月9日の東京株式市場で日経平均株価は4日ぶりに反発し、前日比284円69銭高の29,027円94銭で取引を終えました。
2月15日に30年6か月ぶりの終値30,000円台を付けたものの、後半は乱高下を繰り返す大荒れの市場となり、29,000円台に回復したのは3月3日以来です。
アメリカが行う追加経済対策への期待や外国為替市場での円安・ドル高進行による国内企業業績改善期待から買いが入ってのものと分析されています。
2日に公表された総務省発統計局の令和3年1月分労働力調査によると、
・就業者数は6637万人で、前年同月比50万人の減少(10か月連続減少)
・雇用者数は5973万人で、前年同月比44万人の減少(10か月連続減少)
・完全失業者数は197万人で、前年同月比38万人の増加(12か月連続増加)
となっています。
アメリカでもダウ工業株30種平均は続伸しており、前週末比306.14ドル高の31802.44ドルで取引を終えています。主な理由は米議会上院が巨額の追加景気対策法案を可決し、景気回復加速への期待感が高まったことと分析されています。
しかし、回復を加速した要因としては、感染防止を兼ねてIT武装が一気に進んだことが大きいと考えられます。
日本でもテレワークの推進とともにPCが大量に売れたことはニュースにされましたが、それとともにDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだことは見逃せない状況です。
AIやDXの進化は従来の比ではない省力化、効率化を生じさせます。
1990年代以降に米国で言われ始めた「ジョブレス・リカバリー」
日本では「雇用なき景気回復」と訳されますが、景気が回復しても雇用の拡大が伴わない状態を言います。
一般的に景気回復局面では、雇用は半年程度遅れて動くので、一時的にジョブレス・リカバリー状態になることはあります。しかし、1990年以降においては景気回復が雇用を生まない傾向が強くなっています。
アメリカではその傾向がはっきりしていて、2002年から2003年の景気回復期やリーマンショック後の景気回復期にも雇用は減少していました。
リーマンショック後はアメリカだけでなく、多くの先進国で同様の傾向にあり、もはや景気回復と雇用増加は連動しないという構造が固定化してきているとさえ言えます。
この理由は二つ。
① ICTやロボットなどの自動化・省力化などの技術革新
と言われています。
それは確かに景気低迷をブレークスルーする要因があって、初めて反転するのですから、効率化や技術革新は必要不可欠です。
しかし、そこに人間(労働者)が不在となっていった場合、深刻な状況に陥る可能性もはらんでいると思うのです。
今回は通信によるコミュニケーションの常識化とDXの普遍化が多くの労働者を職場から遠ざけることになるかもしれません。
しかし、そのおかげで一部の企業が業績を上げ、株式市場は高騰したとして、失業者が消費者の中で割合を増やしていった場合、企業もまた富の源泉を失うことにならないでしょうか。
働き方改革も、労働生産性を上げなければ達成することはできません。
少ない時間、労働投下でより多くの利潤を上げることは大切で、それは企業活動の大きな目的であり、空いた時間で人間らしい生活を送るということは大事なことです。
また、そうすることで持続可能な経済活動を進めていけることは間違いありません。
人事労務の専門家である私たち社会保険労務士が探るべき方向性は、そこにあると、決してぶれてはならない根幹なのだと思ってもいます。
そして、この1年。
新型コロナウイルスは、コミュニケーションのあり方を根本的に変えてしまいました。
「会う」ということが咎められるのです。
トコトンステイホーム
ですか。
ワクチン接種が決定的切り札とされていますが、全国民に接種が終わっても、元通りには戻らないと思います。
このままヴァーチャルなコミュニケーションが定着し、生産現場にも、小売店舗にも人がいなくなっていった場合、余った人間をどうするのか。
機械や人工知能の方が効率の良い仕事は、何の衒いもなく置き換わっていくのでしょう。
また、人件費が上がり続けていった場合、どうしても人が行わなければならない仕事を抱えた労働集約型の事業所はどうやって事業継続の利潤を得たらよいのか。
置き換えのできない人件費を売上から確保する工夫が求められます。
これからの時代、「人の専門家」である社会保険労務士は何をなすべきなのか。
何ができるのか。
これからの数年で結論を出さなければならない。
そういう時がすぐそこまで来ています。