協調ゲーム
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、いっかな感染拡大を止めることができないでいます。
米国やイタリアの惨状は酷いものですし、世界中で正に悲惨な状況のなか、日本は結構頑張っていると評価していいと思いますが、今の局面からすると急激に感染者が増えてしまうと予測されます。
このウイルスはいろいろ言われていますが、決して軽んじてはいけない ということは肝に銘じておかないといけません。
28日(土)・29日(日)の週末は、東京都などで不要不急の外出自粛要請がありました。
金曜日のニュースを見ていると「明日から外出自粛になるので、今日のうちに遊んでおこうと思って」などといった勘違いな人たちが映し出されていて、日本人の危機意識の薄さも極まったな と思う反面、あえてこういうコメントを放送するあたりもマスコミってやっぱり自分のシナリオに合う絵を撮りに行くのだなぁと思ったりしてました。
今日は、来月23日に支部の総会が開催予定であることもあって、20時に行われた会見を見ました。内容は特に変わったこともなく、「依然予断を許さないギリギリの分かれ道に差しかかっている」ということで引き続きの自粛要請を行うものでした。
先週末の外出自粛を求めたときの会見に比べたら、だいぶおとなしい感じでしたので、恐らくその後の世間の評価に一定の配慮をしたように感じました。
前回は、陽性反応者が40人を超えたということで慌てて会見をした体に見えていたし、「オーバーシュート」とか「ロックダウン」といった横文字を使っての会見は、当時の状況では分かりにくかったと思います。
結果、意に介せず出歩く人もいれば、不安を感じて食料品などの過度な買いだめ、買い急ぎをする人たちも出てしまいました。
状況を軽んじて出歩くのは論外ですが、不要不急な買い占め・買い急ぎをするのもいただけません。
ただ、この状況下では買い急ぎに走るのは仕方がないというか、むしろ行動分析的には正解であることをちょっと書きたいと思います。
以前にこのブログで、ゲーム理論による人間の行動特性解析について触れました。 tanaka-sr.hatenablog.jp
この時は「囚人のジレンマ」について書きましたが、今回の買い急ぎ現象は「協調ゲーム(Coordination games)」で説明をすることができます。
協調ゲームとは、参加者同士同調することでお互いが最大の利益を得られるという構造のゲームです。
協調ゲームは
1. 複数の理論予測が導かれる(複数均衡)
2. それが非効率な結果を含む(非効率性)
3. 相手次第で自分の最適戦略が変わる(戦略的状況)
という、ゲーム理論分析ならではの特徴を3つ持ちます。(囚人のジレンマは2だけ)
結果、現実の同調行動の多くを説明することができます。
よくわからないですよね(;´∀`)
今回の事例でいえば、「いつもの量でカップ麺を購入する」という選択肢を全員が取れば、商品棚からカップ麺が消えることもなく、社会の利益は最大化します。
しかし、これは全員が同じ選択肢を取らなければ「みんなが使える」というメリットは成立しません。
一方で、「買い占める」という選択肢は自分ひとりだけが選択しても成立します。それだけでなく「買い占めない」選択を取った人の分まで効用が得られる=自分はカップ麺を安心な量確保でき、買いに走らなかった人は1個も買えないことになるため、買い占めない人との比較では「買い占める」人が勝者となります。
安田洋祐大阪大学経済学部准教授寄稿記事より
この表では、各自が選択できるのは「あわてない」と「急いで買う」の二択。
起こりうる4通りの結果について得られる利益(満足度)は
・どちらも「あわてない」:在庫豊富でいつでも自分のタイミングで買える→ 2点
・自分だけ「買い急ぐ」:商品は買えるが買い急ぐコストが1余計にかかる→ 1点
・どちらも「買い急ぐ」:品薄になり買えなくなるリスクで更に1減少→ 0点
・自分だけ「あわてない」:品切れになり、必要なときに買えない→ -1点
数字が大きいほど、その個人にとって望ましい結果となります。
面白いことに、「どちらもあわてない(2点)」と「どちらも買い急ぐ(0点)」で安定的な状況(ナッシュ均衡)が生じます。
本来は「自分もあわてない」のが正解です。倫理的にも正しい。
ですが、「買い急ぐ」でも均衡が生じている通り、既に周りの人間が買い急いでいる状況下では自分だけあわてないでいると必要なときに買えなくなり、最悪の結果となります。
他の人がどう動くのかわからない以上、買いに走るというのがゲーム理論上は正解で、利益は「0」と低いものの「-1」よりはましという心理になります。
仮に相手の行動が分からなければ、相手の協調があって成り立つ「あわてない」という戦略を取るよりも、自己完結する「買い急ぐ」を選ぶのも無理はないことになります。これを経済学の世界では「合理的行動」と言います。
冷静に利益を比較すれば、全ての人にとって「あわてない」=いつもの均衡が買占め均衡よりも望ましいのです。
にもかかわらず、ひとたび実現してしまった買占め均衡から逃れることが難しいのは、「ナッシュ均衡」という均衡の罠に陥ってしまっていて、一人一人の消費者ではどうにもならないからなのですね。
このように個人レベルでは逃れようがない現象(=経済学的には合理的選択)なのですから、正しい方向に向かうには全体が一斉に「あわてない」方向に変わることが必要です。
そのためには正しい情報の共有と「買い急がなくて大丈夫だ」という期待を共有すること、ふたつの「共有」が重要になります。
ちょっと前にトイレットペーパーやマスク、生理用品などが消えたときがそうでしたが、誰もデマを信じていなくても、「本当にこれを信じて買い占める人がいるのではないか」という不安が生まれた時点で、「買い急ぐ」という選択肢をとる方が安全ということになります。
このような分析からすれば、本来行政は、不安を喚起しない方法で正確な情報を発信し、まだ大丈夫という期待を共有できるようにしなければならないのです。
そのためにはマスコミを利用することが効果的で、マスコミも変に煽り立てたり、逆に能天気な緩ませ方をさせるような報道をせずに、誠実な情報伝達に努める必要があります。
自分も、適切な時期に、正しい情報を発信するよう心がけていきたいと思います。