ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
ナイブズ・アウト を観てきました。
世間ではオスカーを取った「パラサイト〜半地下の家族」が話題になっているようですが、あれは映画館じゃなくて、そのうち amazon prime で観れば十分かなと。
1917も観たい1本ですが、今回はナイブズ・アウト即決で観てきました。
ここから後の記事は、ネタバレしていますので、これから観る方はご注意ください。
でも、ここで読むのをやめて観に行く価値はあります。
結論、面白かったです。
何と言っても脚本が良くできています。
見終わった後にしっかりとカタルシスを味わうことができる作品です。
ライアン・ジョンソン監督が、ミステリーの女王 アガサ・クリスティーに捧げると言っている通り、ミステリーとしての骨格はよくできていて、作中で犯人探し(フーダニット)、動機探し(ホワイダニット)、どうやったのか(ハウダニット)を積み上げていく割と古典的で王道の作りになっています。
倒叙ミステリっぽく見せながらも、それを裏切って意外(?)な真実につなげていくあたりはラストの面白いところです。
なんといっても、この映画はこのマグカップが「そうきたかぁ」という伏線になっているのですが、冒頭も冒頭、観客はサラッと見過ごしてしまうところにこれを置いておくのが良いですね。上映ではそこに字幕が出てしまうのが、惜しいといえば惜しい、残念といえば残念なところです。
よく落語家さんが、その日の客の構成を見てサゲを変えて噺すと聞きますが、一般的には字幕で日本語訳を入れておかないとキレイに作品の収まりどころが観客に伝わらないかもしれないので仕方ないところでしょうか。
ちなみに、このマグカップは公式グッズショップで売っているのですが、残念ながらアメリカとカナダしか配送してくれないようです。
$15.95(11Ounces)もするんですけどね。
ライアン・ジョンソン監督は、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」のメガホンを取った方で作品の評価が真っ二つに分かれて物議を醸しました。いろんな意味で世界に衝撃を与えた人ですが、この作品では見事に受けた酷評を覆したと思います。
アカデミーでも脚本賞にノミネートされましたからね。
俳優陣も、あまり映画に詳しくない僕でも見たことがあるような有名俳優が多数キャスティングされていて、巧みな演技も良く作品を支えています。
名探偵ブノア・ブランを演じるダニエル・クレイグ。
カッコよかったのですが、僕がヒアリングができない悲しさで、イギリスの俳優である彼が南部訛りの英語でブランを演じたところの機微を分かりませんでした。こういう時に自分の英語力のなさを恨みます。
作中、クリス・エヴァンス 演じるランサム・ドライスデールから「CSI:KFCか?」と茶化される場面がありますが、?となってました。
後からいろいろと考えてみると、CSIは化学捜査班(Crime Scene Investigation そんな海外ドラマありましたね)、KFCはケンタッキー・フライド・チキンですから、「この南部訛りのオッサンが?」みたいな意味だったようです。
なお、カナダにはベルギーワッフルを2枚のチキンフィレで挟んだ Waffle Double Down というメニューが期間限定であったそうで。
これにカナダ産メープルシロップがたっぷりかけてある(マジか?)という、カロリー爆発(950kcal)な恐るべき食べ物です。僕からするととんでもない食べ物ですが、カナダでは人気があるとか、ないとか。
どんな味するんだ(>_<)
もしかすると、ブノア・ブランのモデルと言われているエルキュール・ポアロがベルギー人の名探偵であることのパロディなのかもしれませんが、これは深読みかも。
まあ、ポアロはベルギー訛りの英語で話すので、その辺で南部訛りを入れてきたというところかもしれません。
で、話の筋は割と本格派のミステリーなのですが、途中、途中にパロディをぶっこんできますし、笑いを入れてきます。
そもそも、キーパーソンである看護師のマルタ(アナ・デ・アルマス)が「嘘をつくと吐いてしまう」という設定が胡散臭いながらも効果的、かつ重要な物語の要素になっているあたりが可笑しいです。
とてもきれいな女優で、2015年には「世界で最も美しい顔100人」で第9位になったほどなんですが、そんな設定を熱演しています。
4月公開の007最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」にボンドガールとしてダニエル・クレイグと共演しているそうです。
また、せっかく証拠隠滅しようとして遠くに投げた木枠を犬が咥えてきてブノアの前に落としたりとか、かなりベタなこともやってくれます。
オマージュというか、パロディもたくさんちりばめられていました。
分かりやすいのはコレ。
どう見たってゲーム・オブ・スローンズ(GOT) の「 鉄の玉座 」
ほぼパクリなんですが、ブノア・ブランが事件を解く過程をドーナツに例えることで、この椅子に誰が座るのか、そしてその中心を何が埋めるのかが謎解きに深くかかわる展開になって、観客を巻き込んでいきます。
指差して大笑いしてしまいましたがヽ(^o^)丿
また、警察とカーチェイスする場面で、暴走運転しているマルタを同乗しているランサムが「ベイビー・ドライバー」と呼ぶあたりも、ニヤリとさせます。
(アンセル・エルゴート主演「ベイビー・ドライバー」も面白かったです。全編ノリノリの音楽で凄まじいカーアクションがしびれました。スバル・インプレッサがカッコよかったなぁ)
そんな設えながらも、不法移民問題 や 人種差別 をうまく織り込んでコメディカルな中にも考えさせる内容も表現しています。
この作品のヒロインであるマルタはウルグアイからの移民です。
大成功したミステリー作家ハーランの看護師として働いていたマルタですが、はじめは彼女のことを「家族」とまで呼んで生活の面倒を見ると言っていたハーランの子や孫たちは、巨額の遺産が全てマルタに相続させるとした遺言が読み上げられた途端、手のひらを返して彼女を罵り、脅迫し、あの手この手で相続を放棄させようとします。
このあたりの描写には、自分達が上にあり、マルタに対して「施し」をする立場にあることを前提にしての「善意」であることを浮き彫りにします。そして、人種や境遇、経済環境などで人を選別し、いともたやすく相手を格下とみる精神構造を批判的に表現しています。
家族たちは皆、ハーランの財力があって成り立っているものであることを棚に上げて、移民の貧しい看護師と自分たち裕福なアメリカ人は住む世界が違うというとらえ方です。
絶対的優位にある自分たちにとって必要な労働力であるうちは受け入れて便利に使い、都合が悪くなったり、自分たちにとって害悪を与える存在となると追い出しにかかるというところは、かつて自らが移民でありながら先住民族を虐げたり、労働力として奴隷を持ち込んできた歴史を映し出していると言えます。
更には、自分たちに都合の良い時は、外部からの移民や奴隷の流入を受け入れ、逆に都合が悪くなれば追い出そうとする現トランプ政権を痛烈に批判しているともいえると思います。
このあたりから、この作品の一番の面白さは、こうした人間の上下関係がガラッとひっくり返ってしまう痛快さにあります。
また、人生を正しく生きる誠実さ、正直であることが大切であることを説いているとも思われます。
(ちょっと詳しくは書けませんが)ダメな家族であってもなんとか立ち直らせようと様々な決断をしたハーランが、真に正しい決断をし、実行した直後に非業の死(まさに!)をとげたことは悲しみを感じます。この事実が否応もなく観客に突き付けられるのですが、とても複雑な気持ちになりました。⇐これはネタバレなところです。ごめんなさい。
でも、それを含めて、「My house My rule My coffee」と書かれたマグカップでコーヒーを飲みながら、屋敷から自分を排斥しようとした「家族」を見下ろすラストシーンはアメリカ映画的なカタルシスにあふれたエンディングとなっています。⇐これはネタバレなところです。ごめんなさい。
ナイブズ・アウト(Knives Out)は、「たくさんのナイフが出た(抜かれた)」ということから「敵意を向けあう」みたいな意味なのかなと思いました。
ストーリーは分かり易くて痛快なのですが、題名が難解な作品です。
結局、ネタバレ的なOUTの内容になってしまいました。
でも、この映画はもう一度見てもいいなと思わせる出来でしたね。
いやあ、映画って本当にいいものですね。
なんとか時間を作って、次もいい作品を観に行きたいと思います。