田中労務経営事務所  業務日誌

埼玉で社会保険労務士をやっています。日々の業務にまつわるあれこれを綴っていきます。

未払い賃金の消滅時効

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だいぶ肌寒くなってきました。

10月下旬にもかかわらず台風が来るような年ですが、確実に晩秋に向かって季節は移ってきているようです。

ところで、秋を表す英語には「Autumn」と「Fall」がありますが、どう違うかご存じでしょうか。


“autumn” は収穫期を意味するラテン語が語源で、英国などでよく使われます。
一方、 “fall” は “fall of the leaf(落ち葉)” から生まれた言葉で、米国などでよく使われます。
元々はどちらも使われていましたが、次第に英国は「Autumn」を、米国は「Fall」を好んで使うようになり、現在は、日常会話などカジュアルな場面に「Fall」、フォーマルな場やニュースなどでは「Autumn」が使われることが多いようです。

 

 

さて、厚生労働省は、労働者が事業主に未払い賃金を請求できる期間について、現行の2年を3年に延長する検討に入ったようです。

www.nikkei.com

2020年4月の改正民法施行で賃金に関する債権の消滅時効が原則5年となるためそれに対応することが目的で、ただし企業経営の負担が過大にならないよう、まずは3年への延長で制度改正の実現をめざすということです。

労政審議会で今年度中にまとめ、できるだけ早期に労働基準法改正を国会に上げる方向と報じられています。

 

この問題については、2017年12月から賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会を立ち上げて議論を続けてきたところです。

www.mhlw.go.jp

令和1年7月1日にまとめられた論点整理が公開されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000524238.pdf

 

 

私法の一般法である民法が、一般債権に関する消滅時効を1年から5年に統一するのに、最低基準の労働条件を定めることで労働者を保護することを目的とした法律である労働基準法のほうが請求権時効を短く制限するというのは、労働基準法の立法趣旨からすると筋が通りません。

ただ、これを政策として考えると、労使の中間で「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資する」ことを目的として業務を行っている私たち社会保険労務士としては、一定の理解をするところでもあります。

 

すなわち、現在の時効期間が2年で、これを一気に5年に延長した結果、全国で一斉に事業主を相手取った訴訟が起こり、経営体力的に十分ではない中小企業が次々に倒産していった場合、国としても看過しえない事態 ― 経済崩壊 ー を招きかねないことは容易に想像するできます。その意味では、健全な経済活動を維持しつつ労働者を保護するためには、未払賃金問題を芦苅場にするわけにはいかないので、何とか軟着陸させようという意図でしょう。

 

そもそも、本来は、事業主が賃金債権の消滅時効を援用するということはないはずのことです。

日々、きちんと労務管理をし、労働時間管理をして正しい計算による賃金を支払っていれば時効の問題は生じないのです。

ただし、故意でなく、法律知識が十分でないことが原因で賃金未払いとなってしまっている企業も相当程度あります。

 

これを機に、改めて「正しい労務管理」と「正しい賃金計算」を整備するように働きかけ、消滅時効など5年でも10年でも関係ないというところへもっていくお手伝いをきちんとしていかないとなりません。

その意味で、中小企業に近いところで業務を行っている社会保険労務士が担うべき役割は重大であると、しっかり認識して企業とともに歩んでいかなければならないと思うニュースでした。